のぼログ

クライミング記録

難病にかかった(だいたい回復ずみ)

かかった難病は、結論からいうとギラン・バレー症候群という病名である。

ギラン・バレー症候群 - Wikipedia

年に十万人に一人かかるという国の難病指定された病名を診断された。発症は 2017 年 12 月で、現在 2 ヶ月を過ぎようとしている。

四肢から力が抜けていくクライミングを趣味とする人間にとって恐怖の病である。とはいえかかってしまったものはしょうがないしだいぶ落ち着いたので、折角ならと思って今回自分が体験したことを記録してみたいと思う。

この病気のおかげでクライミングどころか年末年始のイベントも飛んだし、未だに満足に力が出ないし、なかなかに辛い思いだった...

発症 ~ 入院

発症当日

12 月中旬のある朝、子供の紙オムツを変えようとした時、右手に力が入らず、ちぎることができなかった。その時は朝起きてすぐで寝ぼけていたのでそんなに気にせずに左手で対処するなどした。

その日仕事でキーボードを打っているとやはり右手に力が入らない。指を落とすことができず、手首を使ってキー入力していた。それも夜になるにつれてどんどん症状が悪化していく。

それでも右手の指に力が入らないぐらいで他は元気(痛みもない、体調も良い)だったので、様子見してその日は寝ることにした。

発症 1 日目 

翌日起きると力が入らない範囲が広がっていた。歩くことはできたが身体が重い。左手も力が入らず自分の力で靴下を履くことができない。

これはまずいことになったと思い仕事を休んで病院へ行く事とした。

しかしどこに行けば良いのだろう?何となく整形外科というよりも神経系に行った方が良い気がする... しかし調べてみると神経外科と脳神経外科の二択がある模様。

とりあえず最寄りの脳神経の病院に電話して症状を伝えたところ、「それやばいので入院できる病院に行った方がいいよ、うちではなんともならん」的な回答を得る。

それまでは「うわー力はいらねー、おもしれー」ぐらいの軽い気持ちだったけど危機感が出てくる。というのも力が入らないだけで痛みや多調不良が一切なかったためである。

という事で大きめな病院へ行って診察を受けることになった。

...

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病院では人生初めての MRI を経験し(閉所恐怖症には辛いだろうなぁと思いつつ)、神経周りを圧迫している様子がないという確認を行った。

脳周りに何かあったらと懸念していたけど、先生曰く「脳に障害が出た場合、身体の片方だけに症状が出る」らしく、ほぼ同時期に両手両足に症状が出たので脳に問題がある訳ではないと切り分けされた。したがって今回は首から肩周りにかけての神経を MRI で確認した。

しかし特に神経が圧迫を受けている様子もなく、寝違えなどによるものかもしれないということでもう一晩様子を見て、悪化するようだったらまた明日来てくださいということになった。

原因が判明せずモヤモヤだけが残ったが、とりあえず脳は大丈夫そうという点と、MRI を見た限りは問題なさそうという事実を元にちょっとだけホッとしてその日は帰った。

立っているとしんどいのでその日はテレビを見るなどしてゆっくり過ごす。

発症 2 日目, 入院当日

朝起きると明らかに足に力が入らない、関節をうまく使って歩くことはできるがしゃがんだ状態から立つことができない。手も全く力が入らない。ここまで力が入らないと危機感半端ない。前日に行った病院へ行って再度診てもらう事にした。

...

この時運がよかったのか、臨時で神経外科の先生がいた事だった。

ここで、症状から一番可能性が高いと見られる「ギラン・バレー症候群」なのではという診断が下される。

ギラン・バレー症候群の症状として

  • 四肢に力が入らなくなる
  • 反射がなくなる(膝下を叩いて勝手に足が動くやつ)
  • 一週間ぐらい前に発熱や下痢があった
  • 感覚麻痺 

などがあるらしいが、僕の場合は下痢の記憶と感覚麻痺はなかったが、四肢の先端から徐々に力が入らなくなるという点がまさに当たっていた。ひざ下を叩かれたけど反応がないことも合っていると。(感覚麻痺は該当しなかった。下痢や発熱は覚えてない...)

f:id:ginbear:20180215014724p:plain← この絵だと足が上がっているが、上がらなかった

そしてそこから再度病院を移る事になる(ギランバレーの治療を受ける事ができる病院へ。かなり大きい病院だった)。

移送先の病院でも症状を伝えて、やはりギランバレーの可能性が高いということでそのまま検査、入院コースとなった。人生初の病気での入院...

この時髄液検査を行なったが、背中から髄液を摂取されるという嫌な体験をした(麻酔がかかっていたので痛みはないけど、腰周りに違和感を覚えるなんとも言えない感触であった)。

この時受けた説明だと、ギランバレーは基本何か特徴を見つけて診断するのではなく、他の可能性を排除して残ったもの(除外診断と言っていた)から判断するらしい、ただ状況からしてほぼ間違いなくギランバレーでしょうね~ という感じであった。

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ギランバレーは生の鶏肉などに付着している菌を摂取した際、その菌を体内の抗体が攻撃するのだけどその菌と運動神経がよく似ており、間違えて神経を攻撃してしまい、結果として力が入らないという症状になるらしい。(この辺りは説明を受けた自分の理解なので正しい知識とは限りません。説明を受けてからだいぶ日も経っているし。。。)

なので筋肉はそのままなので一見体つきはしっかりしているのに全然力が出ないという奇妙なことになる。クライマー特有の太めの指なのに缶コーヒーの蓋すら開けられないのであるw

ただ、予後は良好で後遺症が出ることも少ないということでとにかく今を乗り越えることに集中することにした。

...

治療は、血液製剤の投与という事でここから五日間点滴と仲良く過ごす日々が始まる。

24時間点滴なので夜寝る時、うっかり寝返りして一周することができない。なんとも言えないストレスである。そしてほぼ歩けないしトイレも介護が必要なので人権レベルがだいぶ低下する事になる。

そしてこの血液製剤が減ってくるとそれを検知して機械がなるのだが、夜中でもピーピーと部屋中に鳴り響いてこれは結構精神にきた(さらに割り当てられた機械が古くて誤検知も多いのである)。

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発症 3 日目 , 入院 2 日目

投与は始まったものの、直ぐに効く訳でもなく症状は進む。おそらく一番症状が悪かったであろう日である。

症状として覚えてるのは

  • 握力ゼロ、親指と小指をくっつけることができない
  • iPhone の物理ボタン押すのが全力(関節を立てる工夫で押すことはできた)
  • iPhone の充電コードを指すのに数分かかる
  • タブレットがクソ重い、持っていられない
  • 腹筋周りは症状が出てないので起き上がることはできた
  • ベッドから立ち上がるのに補助がいる、一度立ち上がれば関節を使って立つことはできる
  • 足首動かせない
  • 箸使えないのでフォークとスプーンをなんとかして持って食事をする

などなど。ここで一旦症状が止まって徐々に回復しだしたのが幸い。おそらく投薬の判断が比較的早かったのが効いたと思われる。

筋肉を使うシーンと関節を使うシーンを意識したのは人生で初である。

発症 4 日目 , 入院 3 日目

ここで久しぶりにシャワーを浴びる、シャワーって本当にきもちいですね...ただまさか点滴しながらシャワーを浴びる事になるとは思っていなかった。

また、ここまで苦労はしたものの、ギランバレーにおける痛みというのはなかったが、が、この日辺りから別の戦いが始まる。

...

腰痛である。

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恐らく、ベットが変わったことやほとんど寝たきりだったこと、身体の筋肉のバランスが崩れて一気に腰に負担がかかってしまったと予想される(のちにリハビリの先生に相談して聞いた)。

今まで腰痛とは無縁の人生だったが、ここまで辛いとは思わなかった。あまりの痛さで 1 時間以上連続で寝ることができない。立つと少し和らぐので立って寝てを一日中繰り返していた。ロキソニンテープを処方してもらい、貼った直後に 2,3 時間睡眠をまとめて取るという感じであった。

発症 5 日目 , 入院 4 日目

この日からリハビリが開始される。

リハビリは

  • PT:理学療法
  • OT:作業療法 

の二つがあり、それぞれ別の先生がついた。スーパーざっくりいうと、PT は下半身周りで、OT は指先や手をメインとする上半身のリハビリだった。

f:id:ginbear:20180215022333p:plain ← 作業療法のイメージ、まさにこういうことをした。

f:id:ginbear:20180215022323p:plain ← 理学療法のイメージ、まさにこういうことをした。

ギランバレーにおけるリハビリでなんども言われたこととして、「頑張らないこと(辛いレベルまでやらない)」だった。どうもやりすぎは禁物らしく、逆効果になってしまうとのこと。一定のレベルまで行けばその規制は解除されるのだが、リハビリを始めた当初は常に負荷レベルを確認、調整された。

頑張って回復が早くなるならいくらでも頑張るのだが、頑張ってはダメと言われるとなんとももどかしい。

依然として腰痛は治らず。むしろ酷くなる一方。

発症 6 日目 , 入院 5 日目

ようやく投薬が終わり、点滴とおさらばである。点滴が外れたのが嬉しくて何度か寝返り一周をした。治療としては投薬が終わってしまうとやることがないらしく、あとは自己回復力のみで、リハビリに励むしかないとのこと。

そしてこの辺りから少しづつできることが増えてくる。一人で歯ブラシやトイレに行くことができ、徐々に人権を取り戻して行く。それでもかなり必死になってやっとという具合。

しかし依然として腰痛は治らず。腰が痛いのでベッドから立ち上がり、ひたすら夜明けの景色を見る。

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発症 7 日目 , 入院 6 日目

少しづつ歩行も安定してきて、一人で病院の廊下を徘徊することの許可をもらった。 この日のリハビリで握力測定を行ったところ、3キロだった。僕は 30 代前半で、平均は 48 Kg らしいので、1/16 である。ちなみに生活するに必要な握力は 15 Kg と聞いた。

腰痛はロキソニンテープの効果がなくなってきたので、飲みぐすりを処方してもらった。飲み薬の方が痛みによく効いた。

発症 8 日目 , 入院 7 日目 ~ 発症 9 日目 , 入院 8 日目

特に代わり映えのない日が続く。しかし箸も使えないし、缶コーヒーの蓋すら開けられない。ひたすらタブレットで動画を見ていた。

病院内でも行動自由で普通に生活する中で補助をもらうケースは(ペットボトルを買うなど必要なことをしなければ)かなり少なくなっていた。

発症 10 日目

二晩の一時帰宅を許可される。自宅のベッドなら腰痛も改善されるかと思ったけどそんなことはなかった。ただここ数日で痛みがくる間隔が伸びていて、腰痛における一番辛かった時期は通り過ぎていた。

ちょっと近所を散歩したけどひたすら今まで病院の無機質な部屋にいたので世界が騒がしかった。とくにマツモトキヨシの情報量の多さにめまいがした。

発症 12 日目

再び病院へ、前述の通り内科的治療は終わっているので、実質リハビリ入院である。一度家に帰ったタイミングで積読していた本や久しぶりに読もうと思った本を持ち込む。

数年ぶりに静かな病室でライ麦を読む事が出来てこれはいい体験になった。

発症 14 日目

晴れて退院となる。ギリギリではあったけど年末年始を自宅で過ごす事ができた。

自宅ではリハビリ師から教えてもらった宿題をひたすらやる。ちなみに握力のリハビリとしてこれが非常に役に立った。握る力と開く力を同時に鍛える事ができるやつである。

クライマーなら一度は見た事があるかもしれない。リハビリの先生も存在は知らなかったがこういうのがあるならぜひやってくださいという話だった。

発症約 1 ヶ月目

職場復帰できた。電車通勤はつり革をもったり極端な満員電車に乗らなければ大丈夫だった。ただ階段を登る速度が遅くて後ろの人には申し訳ないことをしたかもしれない。(見た目は元気そうな一般男性に見えるのである)

通院として週に一度リハビリにも通う。加えて近所のスポーツジムにも通い出した。

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ジムに通って一番驚いたのは体重だった。なんと 5 Kg 以上も痩せていたのである。おそらく 5Kg 分の筋肉が落ちたのだと思う... 

ジムで身体を動かすと翌日の体のハリが半端なかった。今までストレッチなど殆どしなかったけど流石に宜しくないと思い、運動前後や日中帯のストレッチも真面目に取り組む。それでもハリが半端ない。

ただ熱心に通ったせいか、順調に負荷をあげる事ができた。

発症約 1.5 ヶ月目

回復の度合いを調べるために病院へ向かい検査を行った。軽い気持ちで検査に行ったけど手足に針を刺されて電気を通されるなどして結構痛かった。筋電図検査というらしい。

この時先生に「大丈夫、泣いて帰った人はいなかったから」という謎のフォローを受ける。そして電気を流されるたびに「おぅっ」と声を出していた(まぁまぁ痛い、その上に筋肉に針を刺された状態で力を入れてくださいと言われる)。

診てもらった結果、とりあえず神経は順調に回復したらしい。

発症約 2 ヶ月目 ~ 現在

リハビリ通院も終わりを迎えた。しかしまだ発症前と比較すると回復したとは言えない状況である。

握力を測定したが、15Kg ~ 17Kg だった。まだまだ成人男性レベルには到達していないが、当初聞いていた生活には困らないレベルには至ったようである。このあたりでようやくペットボトルを自力で開ける事ができるようになった。 

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以上がざっくりとした発症から現在までの流れである。こうやって自分で振り返るとあっという間だけど入院中は時間の流れが遅く、腰痛と戦っていた記憶ばかり思い出される。

医療費について

気になるお値段。

入院中に事務の人がやってきて、「投薬している薬まじ高いから高額医療制度適用してね」的な痺れる説明をもらった。自分の見方があっているかわからないけど、明細書をみると、200 万ぐらいかかったように見受けられた。

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しかし高額医療制度のおかげで、一気に現実的な金額まで下がった。加えて僕が入っている健保組合のおかげでさらに金額が下がり、金銭的負担はあまりなかった。働けなかた期間の補填など含め、この辺りは病院のソーシャルワーカーさん*1と色々相談ができたのは非常に助かった。

www.its-kenpo.or.jp

どちらかというと治療費よりもそのあとに通院したリハビリの方が回数も多かったし地味に嵩んだ印象である...

終わりに

ギラン・バレー症候群を調べてみると、症状は結構幅広く、気づかないレベルから自律神経をやられて瞬きすらできなかったり、痛みを伴うケースもあるみたいだった。

この辺りの話をみると症状が重い人は半端ない辛い思いをするようだ。。。

www.moae.jp

僕の場合はそういう意味では中度レベルだったらしい。投薬が早かったおかげか幸い寝たきりになるまで悪くなることはなかった。腰痛は本当に辛かったけど、この病気自体で痛みを伴うものでもなかったので、やはり幸いだったというべきだろう。

...

筋力に関しては普通に生活や仕事をするレベルでは殆ど不自由を感じないが、より身体を動かすという意味ではまだまだ足りない。あと3倍は負荷レベルを上げたい。医師の説明によると発症前のレベルに回復するには半年かかるらしいが、そこはリハビリを頑張って巻きで回復に至りたい。というかここまでしっかりとジムで筋トレした事がないので発症前を上回って肉体改造したい。

 

いつになったらクライミング復活できるかわからないけど、また成長できるプロセスを楽しめると思って前向きに考えている。まぁこれを機に別のスポーツに取り組んでも良いのだけど... ブツブツ。

*1:僕の知識不足なところだとは思うが、今回初めてソーシャルワーカーという役割がいることを知った。この方から支払い周りのアドバイスをもらったり退院後のリハビリ通院先を手配してもらったりなどした。